第28章 無知な審神者は近侍に一服盛られる※一期一振R18
月明かりが廊下を照らす夜、時は子の刻へと変わってから間も無い頃。
近侍である一期一振は茶器を手に主の部屋に向かっていた。
彼の主である桜の部屋はまだ明かりがついており、それを見て一期一振はため息をついたあと、ほんの一瞬だけ笑う。
「主、一期一振です」
「どうぞ」
障子越しに桜に声を掛けてから、戸を開ける。
桜はまだ寝支度をすることもなく、真剣に書類を読んでいた。
「失礼します。主……まだお休みにならないのですか?」
「一期一振、すみません。先程、部隊長から遠征の報告書を貰ったものですから、今夜中に読んでおこうと思って」
「職務も大事ですが、休息をとるのも大事ですよ。体調を崩しては元も子もないですから」
一期一振は卓に湯呑みを置くと、急須からお茶を注ぐ。
そして、小さな生菓子を添えて桜に差し出した。
「ありがとうございます。もう少ししたら、休みます。一期一振も今日はもう休んでください」
「わかりました。では主、おやすみなさいませ」
一期一振は一礼すると、桜の肩に上着を掛けた。
「今夜は冷えますから。お茶も、冷めないうちにお召し上がりください」
「ありがとうございます」
彼はそう言って微笑むと、桜の部屋を出て行った。
一期一振の背中を見送った後、桜はまた書類に目を通し始める。
そして、一期一振が入れたお茶を口へと運んだ。