第22章 路地裏アンアン IN へし切長谷部
長谷部の桜を見つめる視線が、熱い。
桜は頬を朱に染めて彼から目をそらすと、小さな声で呟いた。
「なら……私のこと、もう主って呼ばないで……」
小さな声だったが、長谷部は彼女の言葉を聞き逃しはしなかった。
だが、これまでずっと彼女を主と呼んできた。
それを急に変えるのは難しい。
長谷部は躊躇いながらも、彼女の名を呼ぶ。
「……っ!桜、様……」
「それも、ダメ……」
ずっと敬ってきた相手だというのに、敬称をつけることも許されない。
つまり、今から対等だということだ。
嬉しいが、それでも長谷部は戸惑いを隠せない。
「桜さ……、桜っ」
主でも、桜様でもない。
彼女の名を敬称なく呼べることが、こんなにも情欲を掻き立てるとは。
長谷部は堪え切れない気持ちをぶつけるように、桜を搔き抱いた。
これまで得られなかった、桜の温もりや香りが、今はこんなにも近くに感じる。
「大切にします、桜。私の全てを貴女に……桜に捧げます」
長谷部は桜の後頭部に手をあてると、彼女と唇を重ねた。
初めて感じた桜の唇の柔らかさに、頭が痺れるような甘さを感じると、長谷部の体は次第に熱くなっていった。