第19章 運命の出逢い※燭台切光忠R18夢
「主、ただいま」
本丸に戻った燭台切は審神者の執務室に入ると、書類を手渡した。
「おかえりなさい。遠征はどうでしたか?」
「なかなか刺激的だったよ。主へのお土産も忘れずに買えたし」
燭台切は鞄からお土産の袋を取り出すと、彼女に差し出した。
手渡したのは、パンケーキミックス粉。
燭台切が近時代で出会った桜と食したパンケーキ屋で販売している、オリジナル配合のミックス粉である。
ミックス粉を受け取った彼女は、とても嬉しそうに微笑んだ。
パンケーキなど、このミックス粉が無くても作れるというのに。
彼女は刀剣男士の誰かが近時代に行く際、必ずと言っていいほどこのミックス粉をお土産に頼むのだ。
「ねえ主、どうしてこのパンケーキが好きなの?」
そう燭台切が聞くと、彼女は微笑んで言った。
すると、彼女は頰を赤らめた。
「……昔、素敵な男性と行ったお店なんです。緊張し過ぎてよく覚えていないのですが、私にとってそのお店のパンケーキは特別なんです」
彼女にとって特別な思い出は、彼女の人生においてほんの数時間の出来事だったはず。
けれど、彼女は全てを覚えていない。
燭台切が消してしまったから。
「私が審神者になる前ですから、ずっと前のことです。わずかな時間でしたが、私には特別な思い出なんです」
懐かしむように彼女は言った。
その表情に、燭台切はチクリと胸が痛む。
「……相手の顔とか、覚えてたりする?」
「さぁ……それはご想像にお任せしますよ」
そう言って彼女、桜はにっこりと笑った。
どちらにせよ、彼女はとても美しく、したたかに成長した。
今も変わらず、燭台切を強く惹きつけるほどに。
「彼女が審神者になる前のお話」
終