第15章 不器用な大倶利伽羅の話。
「でも!私にずんだ餅を作って下さいました!」
しょんぼりした様子から一転し、満遍の笑みで得意気に話す桜に、燭台切は目を丸くした。
「え?ずんだ餅?伽羅ちゃんが?」
「はい!私が、とても美味しかったですとお伝えすると、またその次の日もずんだ餅を!」
「へ、へえ……」
桜の話に、気の利いた相槌も出来ずに燭台切は戸惑うばかり。
「それからはずっと、大倶利伽羅さんが私にずんだ餅を作って下さるんですよ!」
桜は満遍の笑みで話す。
その反面、複雑な心境の燭台切。
「あっ、そうそう!それで、燭台切さんは何を作っているのですか?」
「えっと……なんだったかな」
燭台切は手を止めると、忘れちゃったと言って、肩をすくめた。
「ふふ、燭台切さんでも、うっかりさんなところがあるのですね」
桜が厨を出て行く姿を見送ると、燭台切は手元に視線を落とした。
手元にあるのは枝豆。
先程茹でて皮を剥き、これからすり潰すところだったのである。
「ずんだ餅……僕が作っているんだけどな」
先日、燭台切は大倶利伽羅に頼まれてずんだ餅を作った。
大倶利伽羅が燭台切に頼みごとをするのは、稀なことである。
燭台切は喜んで大倶利伽羅にずんだ餅を作ると、その日から毎日ずんだ餅を作って欲しいと頼まれるようになった。
「まさか桜ちゃんのためだったとは……」
馴れ合うことを嫌う彼が、主に寄り添う姿勢を見せている。
そのことが燭台切は何よりも嬉しかった。
なら、自分も一役買おうじゃないか。
「けど、毎日ずんだ餅じゃ飽きちゃうよね」
あとでまた来たら、たまには違う甘味にしたらと言ってみよう。
燭台切は、不器用な彼なりの優しさに、くすりと笑った。
【毎日ずんだ餅を作る燭台切光忠の話】終