第11章 黒髪の誘い
二人は出ていってしまった。
例え仕事といえど、には身を切るような辛さだろう。それにダンテを後押ししたのは彼女自身だ。
尚更引き留めるなんてできない。
バージルは、ダンテを見送っているを見た。
ドアは開けっぱなし。ダンテが女と歩いているのが、小さく見える。
女は、が見ているとわかっているように、おおげさにダンテにくっついて腕を組んでいた。
ダンテが振り払うが、またくっついていく。
それをじっと見ているは、ぴくりとも動かない。
こんな状況見ていられるはずはないのに、何も言わず見送っている。
バージルからはの顔が見えないので表情はわからなかったが、その小さな背中は泣いているようだった。
消えてしまいそう。今にもダンテを追いかけて行ってしまいそうで。
思わずバージルはに近寄り、肩に手を置く。
は一拍置いた後、ゆっくりと振り返った。
バージルはてっきり涙が浮かんでいるものと思っていたが、の目に涙は全くなかった。
悲壮な顔で振り向いて、目が合うとやんわり微笑んで。
それが逆に痛々しい。
肩に手を置いたはいいが掛ける言葉が見付からなくて、バージルは視線をさまよわせた。
「…大丈夫か」
それだけ言う。
は、何も言わず微笑んだ。
ダンテと女はもう見えない。名残を惜しむようにもう一度外を見ると、何かを断ち切るように扉を閉める。
「…じゃあ私、部屋に戻ってますね」
するりとバージルの横を抜けると、部屋へ向かう。
「何かあったら、遠慮なく言ってください」
「あぁ」
階段を上がり、自分の部屋へ行き。
他には見向きもせずに。
───バタン…
ドアの閉まる音。
バージルはソファに座り、額に手を置いた。
がとても儚く見える。ダンテが行ってしまって、一気に元気が消え失せた。それほどまでに好いているのか。
無理矢理笑っているようだが、見ていて辛い。
あんなはバージルも見たくなかった。
───恨むぞ…ダンテ。
認めたくはないが、の元気を取り戻すのに必要なのは自分ではなくダンテだ。待つしかない。
待つしかない自分が、どうしようもなく腹立たしかった。
の力になれたらいいのに。