第10章 依頼人
抱き締め合ったまま互いを見つめると、どちらからともなく引き寄せられるように口づけた。
は頑張ってそれに答える。
ダンテの舌が入ってくると、ぎこちなく自分も絡め。
それを受け止め、更に舌を絡めるダンテ。
「ふ…ぅ…… っ」
全てを忘れるような深い口付け。
熱く息が交わり合い、何度も唇を離し、また貪るように押し付ける。
今だけは。
少しの間離れてしまうから、今だけは。
の目から一筋、透明な涙が流れた。
ダンテはそれに気づくと、その涙を舌ですくい、まぶたに唇を落とす。
「泣くな。俺だって泣きたいんだ」
の艶やかな髪に顔をうずめる。
いい香りがして、本当に泣きたくなった。
「…ごめんなさい」
「謝るな。俺だって謝りたいんだ」
何かを抑えたような声。は涙ながらに、無理矢理微笑んだ。
あまり悲しそうな顔は見せないように。ダンテの方が大変なんだから。
悪魔と対峙して、命を懸けるんだから。
大丈夫。一日だけ。
一日もない。
今夜だけ。
だから、大丈夫。
「……行ってらっしゃい」
大丈夫だよ、ダンテ。
どうか気をつけて。
黒いローブ。
黒い髪。
輝く金の瞳が光を増す。
闇色をしたローブが風をはらんだようにひるがえり。
艶やかな黒髪を揺らし。
ライアは闇にいた。
「───……」
立ち上がる。
視線の先は闇しかなくて、どこを見ても闇しかなくて。
背中が疼くが無条件の無視。
目指すは……
「───様……」