第9章 留守番
「ちょっとそこの可愛いお姉さん、これ食べてかない? おいしいよー」
試食の調理をしている若い男が、に声をかけた。
「え? 私?」
は立ち止まる。
「他に誰がいるってのよ。これねぇ、今日入荷した新商品で…また美味いのなんのって!
ちょっと食べてみてよ! 丁度今焼き上がったからさ!」
「わぁ…ホント、おいしそう」
表情をなごませる。それを見た調理の男は、目を見張っていた。
ダンテには、その男の目が、キランと光った気がした。
次の瞬間男の瞳は、何かを狙うようなぎらぎらしたものに変わる。
───ちっくしょ…あいつ…
ダンテは歯軋りした。
あの男絶対、に惚れた。
調理の男は、「もっとこっちに来て見なよ。ここが二段構造になっててねぇー」などと商品の説明をしながら、の腕をつかんでいた。
ビキッと青筋が立つダンテ。
───あいつ……後でシメる…!!
出て行きたい。心底の前に出て行きたいが、今は見つからないよう耐えるしかない。
いや、いっその事もう出て行こうか? ここで我慢する必要なんて欠片もねーぞ。
そうダンテが思った時だった。
「…あ、できたできた。はい、口開けてー」
男が出来上がったものをつまようじで刺すと、しばし考えを巡らせた後にの前に出した。
はそれに驚いて男を見返したが、少しためらった後、口を開け…
ぱくっ
男の手から、食べた。
その瞬間。
ブチィッ!
ダンテの中で、何かが切れた。
大股でに近づく。素早く腕をのばすと、後ろからをぐいっと引き寄せた。
まさか本当に自分の手から食べるとは思っていなかった男の顔はうっとりとしていて、もはや骨抜きだ。