第5章 風呂場の愛
「……っ」
驚いた。
驚きすぎて思考は完全に停止し、同時に動きも停止。
声も出せなかった。
バージルは最初に気づいていないようだった。
何も知らずバスルームに入って、洗面台に向かおうとして。
しかしふっと顔を向けた瞬間
「………」
少しの間きょとんとを見つめ、体にバスタオルが巻かれているのを見ると。
バンッ!
目を見開き、すごい速さで出て行ってドアを閉めた。
「…………」
沈黙。
「…す…すまん……」
かろうじて、バージルがドア越しに言う。
彼は恥ずかしさと罪悪感で死にそうだった。
対して見られた方のは、バージルより落ち着いていた。
「大丈夫ですよ、バスタオル巻いてましたから。気にしないでください。私の方こそごめんなさい、すぐ着替えますね」
───気にするな… だと?
無理だ。
バージルは思わず手で顔を覆い、ドアにもたれた。
脳裏にの濡れたままの身体が浮かぶ。
慌てて頭を振るが、離れない。
───見てしまった…
それしか言葉が浮かばなかった。
いくらバスタオルを巻いていたとはいえ、バージルには刺激が強い。
まして女慣れしていない彼だ。普段滅多に動揺しない彼を思いっきり動揺させるには十分だった。
「すみません お待たせしましたっ」
ほのかに顔を赤く染めたが、ドアを開けて出てきた。
本当に急いでいたらしく、髪は濡れたままで頭にバスタオルをかぶっている。髪からは水滴がぽたぽたたれていた。
「…すまない……」
とりあえず謝る。
するとはやはり慌てて言った。
「ホントに大丈夫です! 裸見られたわけじゃないですから」
安心させるようににっこり笑う。
バージルは髪が濡れたままのの笑顔を見てぐっとなった。
込み上げる愛しさを持て余し手をのばす。