第20章 藍空
帰る場所が欲しかった。
暖かく温かく自分を包み込んで、お帰りなさいと言ってくれる場所。
還る場所が欲しかった。
生まれた所に帰って還って、全て一に戻したかった。
私の
人生
全て。
頭の中が真っ白に染まる。
それとは裏腹に、目の前には黒と赤と。
ぼんやりと「見たくない」と思うのに身体は1ミリも動かなくて、むしろまるで食い入るように彼を見つめていた。
闇。黒。
背中から貫かれてのけぞった身体が、ゆっくりと音もなく地面に倒れる。
落ちて
堕ちて
墜ちて
無音。
無音。無言。
真っ白だった頭の中は今度は黒と赤。
視界だけが研ぎ澄まされたように働いていたが、他の触覚聴覚味覚嗅覚は全く無に帰していた。
地面が揺れている。
それは自分が震えているのだと気付くのに、随分かかった。
目の前に伸ばしたままの手も。
震えている。
頭の中はやがて真っ黒に変化。化学反応みたいだ。
闇色に塗り潰され、その中輝くように存在していた金色が
光を失っていって。
「ぁ…あ」
一歩。
じり、と下がる。
警鐘を鳴らすように、心臓が懸命に動いている。
更に一歩下がる。
歩いて2、3歩のところに倒れた闇からは紅がとめどなく急速に溢れていて、の足元まで。
紅い池に落ちた彼の白い手は、もう動かない。
それに追いやられるように、更に1歩。
「ぁ…ぅあ…っ」
嘘。
嘘。
嘘。
誰か嘘だと言って。
どうして言ってくれないの。
見たくない。
嘘でしょう。神様。
貴方って人は、どうして、こんなに。
「ぁあ…あ…ラ……っ」
顔を手で覆う。
このまま引っ掻いてしまいそうだ。
黒から広がる紅は、の足元を濡らしていて。
まるで未だ包むように、彼女の周りを囲って。
涙。出ない。
枯れてしまったの?
どうして私は立っているの?
どうして世界は変わらず動いているの?
どうしてこんな事になったの。
この優しい
優しい愚かな魔術師を
こんな結末に追い込んだのは誰。
─── 私……?
目を閉じて開いてみても、目の前の惨劇残劇は変わらなかった。
何ひとつ。