第3章 洋服を買いに
「んじゃあまず、その服をどーにかしねーとな。風邪ひいちまう」
ダンテがの服を見ながら立ち上がる。
彼女の服は、乾き始めているものの結構水をかぶったらしく、まだあちこちが濡れていた。服がひっついて体の線がわかってしまう。
服を重ねて着ているので見えはしないと、はさほど気にしていないようだったが…この二人には目に毒だった。
「あ…はい。でも私、着替え持ってな……」
「あぁ。とりあえず今日のとこは、俺の服貸してやるよ。ちょっと待ってろ」
そう言って、ダンテはドアの向こうに消えていった。
「あ…」
はダンテについて行こうとして腰を浮かせたが、ここは他人の家だ。
勝手についていってもいけないだろうかとまた腰を下ろした。
大人しく待つ。
その様子を見ていたバージルはふと、の腕に怪我があるのに気が付いた。
大した事はなさそうだが、血が出ている。本人も気づいている様子はない。
───おそらく、落ちて来た時に怪我をしたんだろうな。
バージルは無言で、救急箱を取りに立ち上がった。
が不思議そうな顔をする。
「あの……?」
バージルは机の引き出しをガタガタ鳴らして救急箱を取り出すと、に近寄った。
テーブルに救急箱を置きながらしゃがみ、の腕を驚かせないようにそっと取る。
細く、柔らかかった。
「怪我をしている」
「えっ! 気付かなかった…」
「無理もない。腕の裏側だ」
救急箱を開けて消毒薬を取り出す。
「染みるかもしれん」
「大丈夫です」
確かめてから、消毒薬を吹きつける。
途端、が少し顔を歪めた。
「痛いか?」
「…少し」
バージルは余分な消毒薬を拭き取ると、救急箱のふたを閉じた。
「大した傷でもない。そのままの方がいいだろう」
「はい。…どうもありがとうございます」
バージルは立ち上がり、また救急箱を元の場所に戻した。
「礼には及ばん」
そっけない言い方だったが、声には優しさが込もっていた。その優しさに、は嬉しくなる。
ダンテと違って少し怖そうな人だと思っていたが、そうでもないようだった。