第16章 冷雨
ふと風を感じて目が覚める。
身体を起こした瞬間に頭を襲う痛みに、ダンテは顔をしかめた。
反射的に記憶をたどる。
そうだ。酒を一気飲みして、そのまま倒れたのだ。
ダンテとて酒が全く飲めないわけではない。
それなのにあんな一瞬で眠ったとなると、相当強い酒だったのだろう。
倒れたのなんて久しぶりだな情けねぇ、と少しだけ苦い顔をした。
「………」
辺りを見回す。
誰もいない。
「……?」
その静けさはバージルももいなかった過去を思い出させて、ダンテに微かに焦燥感が生まれた。
立ち上がる。
階段へ近づく。
階段の手すりに手をかけた時、ふとキッチンから物音がするのに気付いた。
───何だ。キッチンにいるのか。
ほっとして階段を降り、キッチンの扉に近づく。
しかし同時に、違和感。
歩幅が大きい。
じゃない。
最近はいつもがいたのに、そのちょっとした変化に戸惑う。
キッチンのドアを開けると、シャツの袖をまくって洗い物をするバージルの姿があった。
他には誰もいない。
バージルはダンテが入ると、振り向きもせずに言った。
「遅い。もう昼だぞ」
「…は?」
「買い物だ」
「ライアとか?」
「いや。あいつは部屋にいる」
一人で買い物? 危なくねえか?
眉をひそめる。
その雰囲気を感じとったのか、更にバージルは言った。
「今日は魔界の気が薄い。心配せずとも大丈夫だろう。言っておくが、ダンテ。貴様が二日酔いすると大変だろうと、薬を買いに行ってるんだぞ」
帰っても一人で行った事を怒るな、という事らしい。
ダンテはそれに、わずかな怒りをゆるめる。