第13章 約束
は目を見開いたまま、硬直していた。
今……
今、私… 何 を
された ?
間近に見える、ライアの整った顔。
その瞳は、冷たいながらも優しさを帯びていて。
今起こった事が冗談ではないと、夢ではないと語っていて。
わけがわからなかった。
何をどういう理由でどういう経緯と思いでやったのか、わけがわからなかった。
わかる余裕もなかった。
「様…」
ライアの声と、頬に手のひらの感触。
ギリギリまで近寄ったライアの服は、妙にはだけられていて。
「私はもう耐えられません。…私は…」
どこか切なく、哀願するような声だった。
彼は何を考えているのだろう。なぜここまで泣きそうなのか。
は状況整理で精一杯だった。
つまり今、私は。
口付けをされたという事で。
言葉にできない気持ちをもどかしく思い、ライアはそれを満たす為に再び顔を近付ける。
そっと、の首筋に手をかける。
再び、唇と唇が触れる。慈しむように優しく圧される。
唇の柔らかさはどちらのものなのか見当もつかず、ライアに幸福が、に恐怖が走る。
「……んっ…」
はライアを思いっきり突き飛ばしていた。ライアがよろけ、離れる。
顔を上げるとの瞳に恐怖が見え、ライアは傷ついた顔をした。
「なぜ拒むのですか? あなたが自分で承諾したというのに」
「ねっ 寝るって……寝所を共にって…こっちの意味で…!?」
「こういう事です。ただ隣で寝るだけで命が救われるなら、私は誰とだって寝た。
こういう事だから、私は今まで何もできなかった。心を許した相手でないと…」
は困惑していた。同時に恐怖していた。
布団を握り締め、脅えた表情。
口付けを。よりにもよってライアと。こんな知らない場所に来て。
脳裏にはダンテ。どうしよう、という言葉が頭を巡る。
最悪だ。ダンテを裏切るような行為行動をしてしまった。
しかも置き手紙まで。気付いていなかったとはいえ、ライアと寝る、と堂々と書いてしまったのだ。