第4章 怖い人
船の甲板でずぶ濡れになりながら座り込み、床に手を付く。
いまだに早鐘を打つ心臓を落ち着かせるように大きく吸って吐いてを繰り返す。
「よくあの数の海軍から逃げ切ったなあ!」
「ハラハラしたぜ」
頭上で陽気な声が聞こえた。
「すみません…助かりました……」
息も絶え絶えにお礼の言葉を言った。まだ呼吸は落ち着かない。
「それで?その女はどうするんだ。まさかこのまま船に乗せるつもりじゃねえだろうな」
ドスの聞いた声が響いた。奥のドアに刀を持ってもたれかかった長身の男がこちらを睨んでいる。いかにも海賊であるようなその気迫に押しつぶされそうだ。
どうやら私のことを言っているらしい。船のクルーは全員男だ。
「キャプテン!」
「もう一回別の島に寄ってあげるとか?」
「小舟を渡すとか!」
キャプテンと呼ばれる男に次々と案を提供するが、「島には寄らねえ。」「この辺の荒い海流に女一人小舟で放り投げて殺したいんならな。」と一蹴されてしまった。
最後に、俺は構わねえが と付け足すと、ダメダメダメ!と周りのクルーが首を横にふった。
私はまだ若干整っていない呼吸を隠すように勢いよく立ち上がった。
「あ、私、このまま泳いで島まで、戻りますよ。ご迷惑、おかけしました……」
漠然とした寂しさと不安の入り交じった声をあげた。自分でも分かるくらいに声が震えているが、目を逸らし口角だけを上げた。
それに、そんなことできるか分からない。泳ぎは得意ではない。
「まだ島が見えますし…!ありがとうございました、助けていただいて。」
まだ乾ききっていない長い髪をバサッとならせながら後ろを向き、水平線に消えていない島を見た。
そして二歩ほど進んで、甲板の手すりに手をかけた。
死ぬ覚悟で。
「ダーメだってダメダメ!!そんな足じゃ死ぬから!立ってるだけで足震えてるよ!」
「そうだって!」
私と面識のある二人が止めに大慌てで近づいて来た。私の肩を持って手すりから引き剥がすように後ろに引っ張ると、バランスが崩れて二人に体を預けたような体制になる。
キャプテンと呼ばれる男は黙ってこちらを見ている。
「あーー!!!」
後ろからテンションの高い叫び声が聞こえた。
位置的にはキャプテンがいた所と同じくらいのところのようだ。
二人に預けていた体を起こし後ろを向いた。