第1章 始業の時
《 学秀 side 》
「でもうるさいのは嫌いじゃない。それに、張り合えなくなるじゃないか?」
彼女は驚いた風に僕を見ると、ふふっと笑う。
その姿に見惚れて見つめる。
「私でも、学秀のライバルになれてたんだ?眼中にないのかと思ったよ。一応テストの点数は近いけれどいつも私が負けてるし、余裕そうじゃない?」
「まあそうだな。お前に負ける事は一生ないよう努力はしてるつもりだ。」
「もうっ!また皮肉言う!」
今はこの距離が一番好きだ。
こうやってこいつと冗談を言い合う。
恋愛の好きかどうかは知らないが、花日としゃべるのは楽しいと思っている。
今後どうなるかはわからないが、今を楽しめばいい。
いつかもっと距離が縮まることもあるかもしれない。
そのときはそのときだ、とこの事は考えないようにした。
そうして他愛ない会話をして、途中で別れた。
花日と僕は頭こそは良いものの、考え方は正反対だ。
彼女はこの学校の教育方針をよく思っていないが、僕はどうだっていい。
ただ、父に勝てれば。
それでも、日々の何気ない会話は、なんとなく気が合う。
いや、気が合うのか?
それはわからないが、僕にとって心安らぐ時間には変わりない。
その安らぐ時間がきっと続く、そう思っていた。
でもそれは、呑気で、安易な考えだったということをすぐ思い知らされた。
全ては”あいつ”が原因だ。
あいつと僕の穏やかな時間は、”あいつ”のせいで狂わされてしまった。
今すぐにでもE組に行くのを止めるべきだった。
だが、この時の僕はまだそれを知らない。
だから、止める事ができなかった――。