第3章 冷たい瞳に宿る熱 【ランスロット視点】
「ん……っ、は…っ…。」
今宵も、この男に抱かれる。
シリウス=オズワルド。
黒のクイーンであり、学友であった男。
この男が持ってきた取引。
これ以上、犠牲を出さぬために受け入れた。
その取引の内容は…
“軍を引く代わりに、俺に抱かれろ。”
初めは訳が分からないと思った。
だが、エドガーとゼロを失い、
窮地に立たされていた赤の軍にとっては
願ってもいない話だと。
この俺が、1人犠牲になれば、
これ以上失うものはない、と。
「もう、一月だな。」
「なにがだ?」
「エドガーと、ゼロを失ってから。」
「俺の前で、他の男の名前を呼ぶな。」
「……っ、く…ぅ……!」
何故、俺を抱くのか。
それだけが未だにわからなかった。
────愛してるからだ、ランス。
…そんな声を聞いた気がする。
目覚めた時には、いつも通りの赤の兵舎。
己の部屋。己のベッドだ。
…コンコン
「ランスロット様。ヨナです。」
「なんだ。」
「本日は…その、エドガーとゼロの…。」
「………命日、だな。」
「はい………。」
“準備をする。兵舎前で待機していろ。”
と告げ、一人目を伏せて
二人の姿を思い返した──
『ランスロット様。先陣は俺にお任せ下さい。』
『エドガーだけでは無茶だ。俺も行く。』
『無理をするな。』
──あの時、止めていれば
失うことなど無かったかもしれない。
そんな後悔を、何度も繰り返した。
だが、今更後悔しても、
もう二人は戻ってこない。
失ってしまったものは帰らない。
仲間の絆も、友人も…。
兵舎前に着くと
ヨナとカイルが花を抱えて待っていた。
「行くかー…。」
「そうだね…って、カイルも持ってよ!」
「俺は酒で手がいっぱいなんだよ。」
「…自分用じゃないよね。」
「……あたりめーだろ。」
二人が眠る場所に着くと、
そこにはエドガーの友人で
元は赤の軍の者である
ルカが手を合わせていた。
「ルカ………。」
「……っ、帰る。」
「構わぬ。エドガーは友人なんだろう。」
「…………エド…。」
きっと、
二人は安らかに眠れているだろう。