第3章 冷たい瞳に宿る熱 【ランスロット視点】
音がなくなったように
静まりかえった墓前。
沈黙を破るように
口を開いた黒のジャック。
「……ランスロット…。シリウスが、今夜あの場所に、って言ってた。」
「…ああ。伝言ご苦労。」
「別に、これも仕事だから…。」
まさか、今夜もとはな…。
暗闇が、辺りを包む。
真っ暗な世界に似つかわしくない
光のもとに訪れた。
「遅くなった。」
「命日だからな。仕方ないだろ。」
「…一つ、聞いてもいいか。」
「なんだ?」
「何故、俺を抱く。」
「知ってどうする。」
若干苛立たしい様子で俺に近づく。
いきなり塞がれる唇。
何も聞くな、と告げているようだった。
いつもより強引で
……抗えない熱が瞳に宿っていた。
「ん…ぁ、はぁ………っ。」
「……っ、は……ぁ…。」
ぐちゅりぐちゅりと、
厭らしい水音が響く。
自分の意志に反して悦ぶ身体。
こんな俺の姿を見たら、
皆、どう思うのだろうか。
「…っ、は……今は、俺のことだけ…考えてろ…っ。」
「……っあ…!?」
何故、抱くのか。
知りたい、だが知りたくない。
聞いてしまえば、
全てが壊れてしまいそうだから。
今宵も夜が、更けていった。
──それからしばらく
呼び出しはなくなった。
ほっとしたはずなのに。
何故か寂しさを感じる自分がいた。
「ランスロット様。黒のキングが。」
「……通せ。」
「悪いな、急に。」
「要件はなんだ。」
「手紙。シリウスに託された。」
なぜ、自分で届けないのか。
その答えはすぐに告げられた。
「三日前、シリウスが死んだ。」
「…なに?」
「…決戦の時の傷、治ってなかったらしい。少し前に酷い熱が出てな、それで……。」
「わかった…。」
一人になった室内。
シンとした空間の中、
ふと頬に冷たいものが
流れているのに気づいた。
──ああ……
俺は…シリウスを愛していたのか。
失って初めて気づく。
あの冷たくも熱い瞳に
俺はいつの間にか、射抜かれていた。
愛している、伝えられない後悔が残った。
【完】 冷たい瞳に宿る熱