第3章 MERMAIDは歌えない
とぼとぼ歩く帰り道、暗い道に電灯がちかちかとその先を照らし、空には少しかけた月が登っている。
ふとカラ松は立ち止まり、上を向いた。
恋、その一文字が妙に頭について離れないのだ。
今まで何人もの女を男の香りで虜にしてきたカラ松(自分の想像上)だが、報われた恋をしたことは無い。
自分が好きになったと思う事がないのだ。
きっとあの子は俺の事が好きなんだとか、熱視線で見ているだとかそういう想像は星の数ほどするが実際全くそうではない。
よって声をかけられる事もないし、時には不審者として通報されかけた事さえある。
チビ太と同じ時期に花の精こと、フラワーと付き合っていた苦い経験はあるがそれはまた恋とは別だ。
女に飢えていたからとりあえず付き合った、しかし段々と情がうつってきて自分が居なければと思ってしまった。女としての好きではなく、放っておけないという彼の優しさがフラワーを増長させたのだ。
それをお見通しだったフラワーは、結婚ののちにカラ松と離婚した。ついでに五年分のバーゲンダッシュが離婚条件だった。
この事に対して兄弟全員は爆笑し、泣いて喜んだ。
「「あれを姉(妹)と呼ぶとか無理!」」
松野家の男達はそういう所は馬鹿正直である。
その後のフラワーはというと、フラワーの本体が枯れ果て空へと帰って...は、いない。
なにを血迷ったのか、イヤミという男に乗り換え顔を顔面蒼白になるまでファンデーションでデコレーションしていたのを他の兄弟が目撃したそうだ。
どういう経緯でそう至ったかはあえて触れないでおこう。
女は強しというが、逞しすぎる。
話が脱線したが、そんな訳でカラ松は恋をした事がない。
縁がないとでも言うのか...。
あまりにナルシスト過ぎる彼にひいて女は逃げていくのだ。そしてそれを自分で気づいていないため一向にどうにもならない。
本当の彼は、ただただ優しく思いやり深いアンチキショウなのだ。
「オーマイリルガールふふふふふん、ふふん、オーマイリルガールふふふん、ふふふん」
大好きな尾崎を口ずさみながら、彼は夜道を行く。
ただその方角は家ではなく、別の方へ向いていた。