第2章 オーマイリルおでん
さて残るは我らが愛すべきイタいナルシストカラ松だ。
赤い提灯がゆらゆらと揺れ出す中で、ぼんやりと空を見つめている。いつもなら何かしらイタい発言の一つや二つ言い始めるシチュエーションなのだが、今回はやはり違うらしい。
兄弟達の前では普通に振舞っていたようにも見えたが、思いを掘り起こせばお酒を飲んだ時よりもずっと真っ赤だ。
夏の夜風がひゅうっと心地よく吹き始めると、ゆらゆらと赤い提灯が風に揺られ、ちりんと風鈴の音。
「なぁ、カラ松よう?お前あれなんじゃね?」
グツグツとおでんを煮る音に、チビ太はおでんの具材を確認しながらカラ松へ話しかける。
「あれ...とは?なんだ?」
おでんの出汁を静かに小皿へとうつして、1口含んだ後にふっとチビ太は笑う。
「恋...ってやつ?」
「恋?この俺が?ふっ、彼女と会ったのはあの日1度きりだったぞ?」
先ほど出してもらったコップは、おでんの熱のせいか汗をかいている。
「そういうのはよう、時間じゃねーんだよ」
どこか懐かしむように、囁くようにチビ太はそう言った。その一言にコップを見つめていたカラ松は、ゆっくりとチビ太に向き直る。
その先には小皿を愛しそうに撫でて優しい目をするチビ太がいた。
「時間よりも、もっと大事な事があんだよ。そーいうのは...なぁ?そうだろ?カラ松?」
どこか寂しそうに笑ったチビ太、彼にも以前想い人がいた。それは人ではなかったが、確かに彼の心を温め今もなお胸の奥に生きている。
「...夏の暑さにやられただけさ」
ぐいっとコップの水を飲み干して席を立つ。
初めての感情に心が戸惑って慌てているのだろう。
だが生きていればそれは必ず起こりうる事...。
「...恋か...」
ポツンと呟き、お会計をチャラっと机に並べていく。
「ごちそうさま、美味かったぜバーン」
いつもの調子を見せつけて店を立つ。
「......全然足りてねーんだけど」
お約束である。