第4章 僕らのお姫様 (桜太&慧太)
「まさか。でも・・・信じてもいいかな?って思ってるよ」
慧「桜太は夢見る少年のままですか」
タオルで手を拭きながら、慧太がニヤリと笑う。
「その呼び方。残念ながら俺は、とっくにオトナなんだよ。心も・・・カラダも、さ?」
慧「うわぁ・・・大胆発言、紡が聞いたら嫌い!って言われんぞ?」
「紡に言う訳ないだろう?慧太こそ、清い心の夢見るヒーロー少年でいなよ?」
お返しとばかりに、俺もニヤリと笑いながら慧太に言う。
慧「あ~・・・残念ながらオレも、とっくの昔にオトナの階段登っちまってんだよな」
「その発言こそ、紡が聞いたら嫌い!って言われるよ?」
数秒の沈黙の後、俺達は一緒に笑い出した。
「子供の頃さ、紡を守る為に早く大人になりたいって思ってたけど・・・」
慧「思い描いてた大人とは、ひと足先に・・・違うオトナの階段を登っちまってたな、オレ達は」
「だからこそ、今、ちゃんとしてる・・・だろ?」
慧「だな?」
パチンと音を鳴らし、お互いに片手でハイタッチして笑う。
俺はキレイにしたキッチンの窓際に、コトリと音をさせながら写真立てを飾る。
慧「そこに置くのか?リビングに置き場所あんだろ?」
不思議そうな顔をして、慧太が俺を見る。
「いいんだよ、ここで。キッチンは俺達の城だからね。お城にお姫様は必要だろ?」
慧「確かにな」
そう言って笑いながら、慧太は洗ったばかりのイチゴを1つ口に入れた。
慧「お!紡が喜びそうな甘さだ。桜太も食べてみろよ」
イチゴを1粒渡され、口に入れる。
甘い果汁が口いっぱいに広がった。
「いい買い物して来たね?」
慧「さすがオレだろ?・・・よし、じゃあ我らが姫君の所に献上しに行こうぜ?」
「勇ましいね、騎士殿?」
テーブルの上はまだ、色々と散乱してるけど、紡の笑顔を見るのが最優先だ。
「じゃ、参りますか?」
一人で寂しん坊してる俺達の小さなお姫様は、このイチゴを見てどんな笑顔を浮かべるんだろうか。
きっと紡は・・・
慧「何?思い出し笑いか?ヤラシイなぁ桜太は」
「違うって・・・」
想像つくこれからの事に口元を緩ませながら、俺は車のキーを持ってリビングを出た。
~ END ~