第3章 小さな手のひらに大きな愛を (西谷 夕 ・特別番外編)
・・・やっと、ここまでか。
結構キツイなぁ、1人で300。
まだ半分ちょっとじゃねぇか・・・
でも、そんな事は言ってられない。
これが公式戦で、これが落とす事の出来ない大事な場面だったら・・・
そう思うと、例え息が上がろうと、呼吸が止まろうと、オレはボールを繋がなきゃなんねぇ。
・・・それが、オレの仕事だから。
おもむろに髪を掻きあげ、肩口で汗を拭う。
ふぅ・・・と息を吐き出し立ち上がろうとすると、ネットの向こう側のみんなが騒ぎ出した。
菅「大地!これどういう事?!」
田「大地さん!!マジッスか?!」
スッと隣に立つ人影に、オレもゆっくりと目線を移した。
履き慣らされてるシューズに、赤い靴紐。
白くて細い足に片方だけの・・・真っ白なサポーター・・・
ユニフォーム、は・・・オレの、だけど・・・
記憶の片隅にある、同じ姿のプレーヤーが鮮明に浮かび上がる。
・・・まさか!!
顔を上げると、そこに立っていたのは・・・
「紡?!なんでコートにいるんだよ!危ないだろ?!・・・それに、その格好!」
この姿は・・・髪の長さやユニフォームの色さえ違うものの、オレがホントの意味で紡に一目惚れした時の・・・姿。
『澤村先輩にお願いしちゃいました!』
「しちゃいました!じゃ、ねぇだろ!危ねぇって言ってんだよオレは!」
菅「そうだよ紡ちゃん!こっちには旭もいるし、それに田中だって!」
ネットをくぐり抜けながら、スガさんもオレに同意する。
『田中先輩のスパイクは、1度受けた事あるし大丈夫です!・・・東峰先輩のは、まだないけど・・・腕がもげても、落としません!』
澤「約束・・・忘れた?」
いつの間にか背後に立つ澤村先輩から、冷ややかなオーラを感じ肩が跳ねる。
『や、約束!そう!約束です!腕がもげそうになっても、頑張ります!』
紡のよく分からない決意表明に、みんなが一瞬黙り込んだ。
澤「西谷は、言わば烏野の守護神だ。でも、その守護神に、更に守護神がいても・・・いいんじゃないか?」
「大地さん何ワケ分かんないこと言ってんスか!!」
澤「西谷。城戸さんのここでの実力は、俺が保証する。もし、何かあったら・・・責任取って・・・そうだなぁ、お嫁さんにでも貰っちゃおうかな?」