第3章 小さな手のひらに大きな愛を (西谷 夕 ・特別番外編)
~ 紡 side~
西谷先輩がコートに入ってから、私はずっとその姿を見守っていた。
そんな中、聞こえて来るのは。
キュッというシューズの音と、床で爆ぜるボールの音・・・それから・・・
西「まだまだァ!!!」
西谷先輩の、声。
何度も、何度も、何度も・・・同じ事を繰り返す音。
時折、西谷先輩が雨に濡れたせいで、まるでお風呂上がりのような半乾きの髪を掻きあげる姿を見ては、早まる鼓動を感じて胸を押さえた。
この先ずっと一緒にいたら、そんな姿は何度だって見る事ができ・・・
こんな時に何を考えてるの?!私!!
コートの中では真剣にやってるのに、ダメじゃん!!
急に顔が熱を持ち、パタパタと手で風を送った。
澤「・・・仲直り出来て、よかったな?」
近くで同じ様に西谷先輩を見守る澤村先輩が、目をそらすことなく私に言った。
『はい・・・ホントはまだ、ほんの少しだけモヤモヤが残ってますけど・・・でもいいんです。西谷先輩が、1番嬉しい言葉をくれましたから』
澤「嬉しい言葉?」
『はい。とっても、響く言葉です』
私は西谷先輩の言葉を思い出しながら、澤村先輩を見た。
澤「西谷は心が真っ直ぐなヤツだからな。俺達が言えないような事をハッキリ言う時もあるし・・・で、なんて言われたの?」
『それは・・・私と西谷先輩との秘密です』
澤「それは残念」
お互いに顔を見合わせて、軽く笑った。
『それより、澤村先輩にお願いがあるんですけど・・・』
澤「お願い?なんだろ」
ちょいちょい、と手招きをして私のお願いをヒソヒソと内緒話をする。
澤「ええっ?!」
『澤村先輩!声大き過ぎ!』
澤「ゴメン、ちょっとビックリして・・・いや、でもそのお願いは・・・」
『絶対にケガはさせません!だから・・・お願いします!』
両手を合わせ、目を閉じ必死にお願いポーズを見せる。
澤「う~ん・・・そこまでお願いされたら、俺も断りきれない、な。但し約束してくれ。ケガをさせないのは分かったけど、自分もケガをしない事。これが最大の譲歩だよ」
『ありがとうございます!早速、女子更衣室行ってきます!』
澤「着替え?それ結構似合ってるのに?」
『違います、スペシャルなシューズを持って来るんです・・・きっと、西谷先輩はビックリしちゃうかも』