第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
慧「で、なにがあったんだ?」
さすがに街中では人目が多すぎるからと、慧太くんがすぐ近くに馴染みのサテンがあるからって連れて来てくれた。
なんだか隠れ家的な場所や店の雰囲気が大人っぽくて、慧太くんはいつどんな時にこのお店を使ってるんだろうかと思った。
慧「オレには話せないってやつか?」
『そうじゃなくて···』
慧「じゃ、アレだ。オレにも関係してる事···ってトコか」
片眉を上げてニカリと笑う慧太くんは、こういう勘がいい所はさすが双子と言うべきなのか桜太と同じだ。
慧「黙ってるって事はアタリだな?じゃ、話して貰うかね?つか、その前にひと口くらい飲んだらどうだ?冷める前に」
チラリとカップを見て慧太くんが言って。
それもそうだな···と小さく頷いてカップに口を付ける。
ミルクココアの優しい甘さと、喉を抜ける温かさに冷え切ってしまった心が暖かさを取り戻した。
『実は、ね···』
目の前にいるのが桜太じゃないのに、少しずつ言葉を探しながらも話せるのは、相手が桜太と同じ瞳をした···慧太くんだからだろうか。
···全体的な雰囲気は、全然違うんだけどね。
それでも私が話し終わるのを黙ってずっと聞いていてくれて、そういう所も桜太と同じだと思いながら話を終えた。
『···という感じで、荷物を放り出して家を飛び出して。気が付いたら、慧太くんにナンパされてたの』
慧「ナンパって、確かにそこは間違いないけどな。しっかしなぁ···梓ちゃんのオヤジさんも、思い切った事してくれるな?」
『ごめんなさい···』
慧「謝ることはねぇよ。むしろ、よくそこまで調べたなって拍手モンだっつーの」
大げさな程の身振りを加えながら言う慧太くんを見て、つい吹き出してしまう。
慧「ほら、笑ったじゃん?オレや桜太に取って、アレこれ調べられても大した事なんてないって。桜太は叩いても埃どころか、塵ひとつ出ねぇよ」
オレはヤバいかもだけどな?と言う慧太くんに、そうかも···と笑えば、それはそれでおでこを小突かれた。
慧「そんじゃ、いろいろ話して元気になった事だし···そろそろ送ってけ、桜太」
『え···?』
慧太くんの視線を辿ると、すぐ後ろの席にはいつの間にか桜太が座っていた。
『いつ···来たの···?』
桜「それは歩きながら話すよ。ありがとうな、慧太」