第36章 そして朝日はまた昇る ( 城戸 桜太 )
ピピッ ピピッ ピピッ ピ···
枕元でけたたましく鳴り出す目覚まし時計に手を伸ばし、手探りでスイッチを探して止める。
昨夜は慧太に付き合わされて遅くまで起きてたから···眠い。
けど今朝は朝食当番だから、そうも言ってられないな。
両手足を伸ばしてからベッドから出て、サイドテーブルに置いてあるつぶらな瞳の大きなうさぎのぬいぐるみの頭を撫でる。
「おはよう梓」
今はもう、ここにはいないぬいぐるみの贈り主の名前を呟きながら、垂れ耳を指先でなぞって、鼻をつつく。
まったく、ぬいぐるみ相手に朝の挨拶するとか、俺もどうかしてる。
だけど学生時代からの習慣だから、今更急にやめるのも変な感じがするし。
「ま、いいか」
誰に向けたわけでもなく言って、カーテンを開け朝日を部屋に取り込んだ。
サッと着替えを済ませリビングへと向かい、使い慣れたエプロンを被ってお弁当箱を2つ並べながら朝食の支度へ取り掛かった。
昨日は慧太が当番だったからトーストにスクランブルエッグ、ハムとサラダだったし。
だからと言うわけじゃないけど、今日は和風にしとこう。
キッチンに置かれた時計で時間を見ながら、手際よく調理を進めていく。
どんなに忙しい時でも、母さんは出汁から味噌汁を作ってくれた。
その作り方を教わって、初めて作った味噌汁を父さんも母さんも美味しいって喜んでくれて···以来、ずっと同じ作り方で味噌汁を作って来た。
俺が母さんに教わったように、紡には俺が教えたけど。
いつか紡も、誰かにこうやって朝ご飯を···いや、ダメだ。
そのいつかは、まだまだまだまだ···先だ。
そう簡単にまだ見ぬ誰かになんて委ねられない!
グッと菜箸を握りしめ、頭の中に浮かびかけた紡の未来予想図を追い払う。
···っとと、危ない危ない。
味噌を溶いたのに沸騰させる所だった。
IHのスイッチを切ると同時に、炊飯器が炊き上がった事を知らせるメロディが鳴り、そろそろ起こしに行くかな?と顔をあげれば。
「いつからいたんだよ、慧太。お前にしては珍しく早起きだな?」
慧「さっきからいたけどな。桜太が変な顔しながら味噌溶いてる辺りから」
···。
慧「ま、だいたい何考えてたのか想像はつくけどよ。シスコンもほどほどにしねぇとモテないぞ?」