第32章 MENUETT ( 夜久衛輔 )
それが夏休みになっても、オレが学校にいる時はずっと聞き続けていて、帰る時は駅まで送ったり···いつの間にか、それが当たり前になっていて···
こんな時間が、いつまでも続けばいいのに。
そんな事を思っていた···ある日。
城戸さんを駅に送った時、思いを告げられた。
「えっ?!い、今のって···」
告白···って、ヤツか?!
驚きなから何度も瞬きをすれば、緊張で赤くなった顔を隠すように城戸さんは俯いた。
『最初は、練習してる時に一緒にいてくれる優しい先輩···だったんですけど』
「う、うん···」
『だけど、気が付いたら···そばにいてくれないと寂しくて、それに···気が付けば姿を探してる自分もいて···』
ヤバイ···
オレ、嬉し過ぎて泣きそう···
ぼんやりと滲む視界と、意志に反して緩む口元を隠して···1歩前に出る。
「あのさ···オレの話も聞いてくれない?」
『···はい』
「オレも、さ?実は···」
ずっと前から、好きだったんだ···
耳元で小さく言えば、更に赤くなっていく顔を両手で隠された。
「だから、オレで良かったら···なんだけ、ど···?!」
トンっと小さな衝撃に、大きく動揺する。
『先輩じゃなきゃ、ダメなんです』
オレの胸に顔を埋めながら言う姿が、やけに可愛くて。
そこが駅前で、人がたくさんいて···だけど。
そんな事もお構いなしに···抱き締めた。
「夏休みが終わっても、ずっと一緒にいよう」
『···はい』
「秋が来ても、冬が来ても···オレが先に、卒業しても。それでも···巡ってくる季節を一緒に過ごそう」
『···はい!』
きっかけは、昼休みに聞こえて来た小さなメロディー。
でもそれは、大きな物に気が付く第1歩だったんだ。
チラチラとオレ達を見る人波の中で、大事なものを見つけた幸せを噛み締めながら···空を見上げた···
~ END ~