第32章 MENUETT ( 夜久衛輔 )
最近、昼休みになると聞こえてくる···この音。
柔らかで、思わず目を閉じてしまいそうになる···少し悲しげな響き。
それは風に乗ってどこからともなくオレの教室と届き、そしてまた風に乗って流れて行く。
なんだっけな···この曲。
小学校とか、中学の音楽の授業で何回か聞いてるはずなんだけど。
曲名が全く出てこない。
これが体育の授業で、バレーのルール!とかなら。
誰より先に胸張って答えられるんだけどね。
あ···音が止まった。
急に止まる音に思わず耳を澄ませば、すぐにまたさっき聞いた所から鳴り始める。
あ、また···止まった。
はは~ん···間違えて何度もやり直してるのか。
同じ所を何度もやり直す姿を想像して、いったいどんな人が演奏してるのか···なんて気になって来る。
ま、こんな感じの曲とかだから吹奏楽部の誰かだろう。
頑張れ···と、見えない誰かに小さくエールを送って午後の授業までの軽い睡眠を手に入れた。
放課後になり体育館へ行くと、そこでも風に乗ってどこからか楽器の音が聞こえてくる。
ま、部活の時間だから吹奏楽部も練習してるだろうしな···なんて思いながらも、ふと考える。
吹奏楽部って、向こうの音楽室だよな?
だったら、こんな近くで聞こえるハズないんだけど。
自主練か?
どこから聞こえてくるのか分からない音に首を傾げていると、そんなオレの様子が気になったのかクロがニヤつきながらオレを見ていた。
「なんだよクロ。言いたいことがあるなら言えよ」
黒「べっつにィ?」
かぁー!なんかムカつくな!
「お前のそのニヤつきはなんだよ」
黒「だから、別にって言ってんじゃん?」
「あっそ。ならいいし」
フイッと顔を背けて歩き出せば、すぐさまクロがオレの肩に腕を回して絡んでくる。
黒「あらあらぁ?やっくん、今頃反抗期ですかァ?」
「あのなぁ!別にそういうんじゃねぇよ!ったく···ちょっとあの音が気になっただけだし!」
空を見上げるように言えば、クロはまたもニヤリと笑ってオレを見た。
黒「あれは研磨と同じクラスの吹奏楽部の紡ちゃんだよ」
「は?なんでクロがそんな事まで知ってんだよ」
黒「聞いたから、かね?」
「研磨にか?」
黒「いーや?ご本人サマ」
どんな情報網かと思ったら、本人かよ。