第19章 たとえばそれは、春風のように ( 澤村大地 生誕 )
『直接会って、大地に伝えたいことがあるの。いい、かな?』
···そう電話で言われて、ひとつ返事で会う約束をした。
春高に行ける事になって、3年生でありながらも部活で忙しかったから···ゆっくり会いたい、とは思っていた。
なのに、さっきのは···なんかいつもと違う感じがした。
電話の向こうの、ちょっと深刻な感じに戸惑った。
まさか、だよな?
俺、なんか嫌なことでもしたか?
いや、そんな覚えは···ない。
そもそもまだ、何もしていない。
あ、いや。
まだ、っていう言葉が正しいのかどうかはわからないけど。
スガ達にからかわれながら、やっとの思いで手を繋いで歩いたのだって···つい、最近だ。
俺達まだ、始まったばかりじゃないか。
早くも終わり···なのか?
そう考えれば、原因は俺にあるんだろうと思う。
そのひとつは、バレー漬けの日々。
ふたつめは、部活で満足に会えない代わりに毎日夜···電話をする約束をした。
···にも関わらず、1度だけ約束を守れなかった日があって。
チョットだけ、言い合いになった事がある。
その場に居合わせたスガと旭が仲裁に入ってくれて事なきを得たが···
あの時、紡は···
『菅原君にそこまで言われたら、仕方ないね。大地、菅原君に感謝しないとね···なぁんて』
とか、言ってた。
もしや···
いや、そこはあんまり考えたくはないけど。
俺より、スガの事が···とか?
スガめ···誰彼構わず爽やか笑顔フラッシュして!
いやいやいや···落ち着け、俺。
でも···可能性は、無くはないな。
ん?
ちょっと待てよ?
この前、紡が練習試合を見に来てた時。
たまたま旭がいい感じのスパイクを決めたのを見て。
『大地、東峰君ってさ?普段の教室にいる時とは別人のような活躍だったね!ちょっとカッコよくて、ビックリしちゃった!』
その後も、しばらくは旭の事をずっと話していて。
···旭か?!
旭に心変わりしちゃったのか?!
···あンの、ヒゲちょこめ。
いつもガラスハート呼ばわりしてる俺に対しての仕返しか?!
···違うな。
冷静になって、よく考えろ、俺。
スガも旭も、そんな事をするようなヤツじゃない事は俺が1番分かってるハズだ。
じゃあ、なんで?