第18章 雪···ひとひら ( 城戸 桜太 X'mas特別番外編)
「まだ降ってるのか···」
当直室の窓を開け、眠気覚ましに空気を入れ替える。
紡、ちゃんと布団被ってるかな?
両親以上に大事に育てて来た小さな妹の顔を思い浮かべて、思わず苦笑が漏れる。
慧「桜太は過保護過ぎだろ」
いつだったか慧太に言われた言葉を思い出し、そんな事はないよ、と独り言を呟く。
それに、過保護だって言うなら慧太も同じだ。
願って、願って、産まれてきた妹。
それが、紡なんだからさ?
過保護過ぎるのも···だけど、適度な過保護ならオッケーじゃないか。
妹なんだし。
窓を閉め、カーテンを引く。
ひとつ大きく伸びをして、白衣の襟をきちんと正す。
「さぁて、やりますか···」
デスクに向かい、パソコンを立ち上げる。
当直医の夜は長い。
もちろん、合間に急患が搬送されて来たり、病棟の患者さんに容態の変化があれば忙しさに時間なんて気にしてられないけど。
それ以外の時間は、カルテのチェックや昼間手をつけられなかった自分の仕事をやっつけてしまわないといけないから。
仮眠を取れる時間があるなら、少しでも···というドクターもいるけど、俺は今夜は···そう簡単に眠りにつけそうもないから、ね。
世間一般では、今夜は聖なる日の···前夜。
恋人達も、家族も、寄り添い合って過ごす日。
だけど、今夜は当直当番だからそれも出来ないし。
何より、自分が担当している子供達も家族と過ごしたくても過ごせない理由で、ここにいる子供達ばかりだから。
せめて、笑顔の朝を迎えられるように···小さな祈りを。
キーボードの音が静かな部屋に響く。
こんな静かなままで、朝まで過ごせたらいいけど。
そう思った矢先に···
「んふふ、みぃつけた···」
キィ···とドアが開くのと同時に怪しげな声が届いて、驚きながら振り返る。
「立花先生···もっと普通に声をかけて下さいよ···」
あからさまに大きなため息を吐きながら、目の前に現れたひとクセあるドクターに視線を送る。
立「なになに?もしかしてオバケだと思った?ビビった??」
俺より随分年上の立花先生は、まるでイタズラが成功した時の子供のように笑う。
「全く···別にオバケだとは思ってませんよ。それに立花先生は、ある意味オバケより面倒です。それで、俺に何か用事でも?」