第12章 カッコイイって、難しい。 ( 山口 忠 )
あれだけ城戸さんとはしゃいだら、そりゃあ···そうなるよな。
日向も何だかんだ言って、妹思いじゃん。
向かい側に座る日向家を見て、家族連れって微笑ましいよな、なんてコッソリ笑う。
コホンっと咳払いが聞こえ、隣を見れば···
わっ?!
「す、すみません···」
いつの間にかに寝てしまった城戸さんが、その隣にいたオジサンに寄りかかってしまっていて慌ててオレの方へと引き寄せる。
城戸さんも、あれだけたくさん絶叫マシンに乗って、最後にあんな経験したら···疲れちゃったよね?
またオジサンの方に行かないように、そっと腕を伸ばして支えあげる。
···つもりだったんだけど?!
電車の揺れに流れて、城戸さんがゆるりとオレの胸にもたれ掛かってきた!
どどど、どうする?!
っていうか、押し戻すのも変だよね!!
それに···眠っている城戸さんって、なんかホカホカと温かい。
チクリと刺さる視線を感じ、顔をあげると日向がジッとそれを見ていて、思わず腕を縮める。
それでもなお、城戸さんは眠ったままで···
これくらいだったら、いいよね?と自分に言って、見えない所でそっと手を繋いでみる。
『う、ん···山口君···』
えっ?!
い、いま寝言でオレを呼んだ?!
どんな夢を見てるの?!
飛び上がりそうな心を押さえつけた代わりに、心臓がバクバクと早回りする。
ヤ、ヤバい···無になろう。
平常心···平常心···平常心···
目を閉じて、心で呪文のように平常心と繰り返す。
せっかくカッコよかったって言われたんだ。
だから···最後まで···カッコ、よ、く···
高鳴る胸のドキドキと城戸さんの体温で、閉じた目が開かなくなっていく。
ダメだ···
やっぱりオレに、カッコイイとか、難しい、かも。
1度目を閉じてしまうと心地よい電車の揺れにも勝てず、次第にオレも、城戸さんと寄り添う様に凭れながら、夢の中へと落ちて行った。
その時はまだ、遊び疲れて眠るオレ達を、日向がコッソリ写メって、バレー部のグループLINEに添付していた事は、知る由もなかった。
~END~