第1章 〖 恋よりも、愛よりも 〗人気投票1位記念 城戸 桜太
ホテルのラウンジを見渡すと、俺を見て軽く手を振る姿を見つける。
「ごめんね、随分と待たせちゃって」
待ち合わせた相手の元へ歩み寄り、テーブルを挟んだ向かいのソファーに腰を降ろす。
「気にしないで?大丈夫だから。それに私、城戸君の仕事、尊敬してるし?」
語尾を上げながら言って、俺を真っ直ぐに見る笑顔は、昔と変わらなくて。
それを見るだけで、過去の甘い時間が胸を埋めていく気がした。
「それより驚いたよ。急に連絡来たと思ったら、まさかこっちに戻ってるって聞かされるなんて」
俺がそう言うと、少し照れた様に微笑んで、驚かせたかったから、とまた笑う。
「なんか色々あって、気晴らしに・・・かな?」
なんか色々って濁すのは、俺にそれ以上聞かないで欲しいって言ってるんだろう。
「あのさ、紡ちゃんは・・・元気にしてる?」
「紡?あぁ、元気だよ?4月から、もう高校生になるよ。でも、どうして?紡の事を聞くなんて、珍しいね」
「何となく、かな?紡ちゃんは私の妹みたいに思ってたし。ほら、私って1人っ子じゃない?だから・・・」
瞬きをしながら早口に言う癖、それも昔のまんまだ。
そういう時の君は・・・
「梓?ホントは何があった?」
数年ぶりに呼ぶ名前に、俺自身の心が揺れた。
「急に名前呼びするなんて、城戸君ズルい」
「桜太・・・でいいよ。今だけは、ね?」
まるでそう呼ぶ事を俺が許すように言って、本当はあの頃と変わらない君に・・・俺が、そう呼ばれたいと思ってる。
君が言う通り、俺はズルイのかも知れない。
「で、何があったの?」
もう1度、同じ様に問いかける。
「今は・・・言わない。だからもう聞かないで、桜太・・・」
瞳を揺らして、瞼を伏せる姿に俺は口を閉ざした。
話題を変えよう。
そうすれば君の笑顔を、また見れる気がするから。
さり気なく腕時計に視線を移す。
時計の針は6時を少し回った所か・・・
「梓、せっかくだから一緒に食事でもしようか?ディナーには少し早いかも知れないけど、その分ゆっくりいろんな話が出来るんじゃないかな?どう?」
俺が話を振ると、梓は俯いて少し考え、だったら、と言いながら顔を上げた。