第9章 月夜に咲くのは甘い花 ( 縁下 力 )
『当たり前ですけど、甘くて美味しい・・・』
「それは良かった」
『じゃ、今度は縁下さんがどうぞ?』
そう言いながら、袋からまた綿あめを摘もうとする。
「待った。俺はこっちの甘いのを分けて貰うからいいんだよ」
『こっちの、って・・・んン・・・』
紡が言い終わるよりも先に、その甘い唇へと触れるだけのキスを落とす。
「・・・ホントだ、甘い」
『今のは、ズルイ・・・』
明かりなんかなくても分かる。
きっと今の紡の顔は・・・
再び大きな音が鳴り、夜空が明るく弾けた。
仕掛け花火というだけあって、左右に広がったり、小さな光が回りながら夜空を駆け巡ったりしている。
『キレイ・・・』
夜空に輝く光で、紡の顔がキラキラと反射する。
「うん・・・キレイ、だよ」
いつもと違う雰囲気の、紡がね・・・
『手を伸ばしたら・・・届きそう。月の欠片が降ってくるみたい・・・』
「星、じゃなくて?」
星が降る・・・っていう例えはよく聞くけど、それが月って言われると・・・不思議な感じがした。
『月、でいいんです。星はホントに降る時あるから・・・・・・・・・ぁ・・・』
話しながら目が合うと、紡はちょっとの間を開けて照れながら目を逸らした。
今の間って・・・
「もしかして今、期待しちゃった?」
『べ、別に期待とか・・・・・・でも・・・ちょっとだけ・・・』
両手で顔を隠しながら、紡が小さくポツリと零す。
いつもなら、恥ずかしがってばかりなのに。
こんな可愛い姿を見せられたら・・・
「俺は期待に答えないと、だな?」
紡の頭をかき寄せ、さっきより長いキスを落とす。
息苦しさの為か、俺のシャツをキュッと掴む小さな手さえ、愛おしくて堪らない。
ようやく解放すると、紡はペタリと俺にもたれ掛かり小さく息を吐いた。
『長くて、死んじゃうかと思った・・・』
「これ位じゃ死なないよ。ホントはもっと、したいからね」
俺の言葉に紡がピクリと体を震わせる。
『じゃあ・・・もう1回・・・』
「お強請り上手だな」
そう答えて、俺達は月の欠片が降り注ぐなか、何度も何度もキスを交わした。