第9章 月夜に咲くのは甘い花 ( 縁下 力 )
俺達を差し引いた人数を考えても、そっちの広場に行った方が見やすいしね。
紡の手を引きながら、5分と掛からずに目的の場所に着く。
「そこ、少し段差があるから気をつけてね」
『あ、はい』
薄暗闇の足下に目をやりながら、紡が浴衣の合わせを持ち上げた。
ひらりと風にめくれる生地の間から紡の足が見えて、目を逸らす。
何やってんだ、俺。
足なんて部活の時に・・・見慣れてるだろ。
なのに、何で今日はこんなに紡にドキドキするんだろう。
こんな時間に、2人でいるからだろうか。
そんな事を考えていると、さっきとは違う大きな音が空に響き渡り、夜空に大輪の花が咲いた。
『キレイ・・・こんなに近くで見れるなんて思ったなかったので、感動・・・』
「ね?いい場所でしょ?」
同じように空を見上げながら言うと、連れて来てくれてありがとうございますとにこやかに返された。
いくつもの花が夜空に咲いては・・・消えていく。
その度に紡は、キレイとか、凄い、と繰り返しては目を輝かせていた。
数十発の打ち上げ花火が終わり、一旦この場所にも静けさが戻る。
『終わっちゃった・・・』
それまで色とりどりの光に目を輝かせていた紡が、その目に影を落とす。
「大丈夫だよ、打ち上げ花火は終わったけど、これから仕掛け花火が始まるから」
ずっと立ちっぱなしなのもなんだしと、近くにひとつだけあるベンチに並んで座る。
薄暗闇に2人でいるからか、それとも次の花火を待ってなのか、紡は来るまでに買った綿あめの袋を抱えながらソワソワしていた。
「あのさ、」
『綿あめ、食べましょうか!』
次の花火が待ち遠しいね?って、言おうとしたのに。
ソワソワしてたのは、前者の方か?
嬉しい笑いを堪えながら、そうだねって答えると、紡は綿あめの袋からひとつまみ取り出し俺に差し出した。
「先に・・・食べなよ?」
『でも、さっきもコレ買って貰ったし。だから、』
髪に飾られた物を俺に見せながら、はい、と摘んだ綿あめを差し出す。
「いいから先に食べなって。ほら、溶けちゃうよ?」
俺がそう言うと、紡は自分の指先を見て、ホントだ・・・と言いながら口へと運んだ。