第9章 月夜に咲くのは甘い花 ( 縁下 力 )
縁「アレって、何ですか?」
縁下さんがそう返すと、小さく私達を手招きして、耳を貸せと澤村先輩が屈んだ。
澤「さっきイチャイチャの邪魔しちゃったからね。別行動になったら好きなだけ甘えっこしなさい」
『えっ?!』
縁「なっ、何言ってるんですか大地さんは!!」
縁下さんの叫びに澤村先輩が大きく笑った。
澤「ま、そういう事!こっから先は2人で行っていいよ。とりあえず出だしだけいてくれたら、適当な所ではぐれてくれ。以上!」
・・・以上!って、そんなアバウトな。
そんな3年生達の提案で、私達は最初こそみんなと歩いていたものの、少し回った辺りで清水先輩が振り返り、手を振るのを見て、縁下さんと2人で集団から外れた。
『本当に、良かったんでしょうか?』
並んで歩きながら、ポツリと縁下さんに問いかける。
縁「俺は後々でアイツらに追求される事は覚悟したよ。それに、紡と2人で来たかったなって思ってたのも事実だし。それとも?紡はみんなと一緒が良かった?」
『・・・その質問は、イジワルです』
私だって、同じだったから。
その答えを返す代わりに、繋がれた縁下さんの手をキュッと握り返した。
2人でゆっくりと歩きながら、いくつかのテキ屋を見て周り、暑いしカキ氷でも買おっか?なんて言っていた時・・・
『あ!見て下さい縁下さん!』
たまたま通り過ぎようとした所に手作り雑貨を扱っているお店があった。
『ね、これってウチのユニフォームのデザインみたいじゃないですか?』
その中からかんざしをひとつを手に取り、縁下さんに見せる。
黒に近い濃紺をベースに、明るいオレンジ色のラインが斜めにスルリと入っていて、先端には小さな鈴がふたつ下がっていた。
縁「へぇ~、女の子って意外な見方をするんだなぁ」
ー お嬢さんの浴衣の色と、よくお似合いだと思いますよ? よかったら、試しに付けてご覧なさい ー
店番をしているお婆さんが腰を上げ、私の髪にかんざしを飾ってくれる。
『どう、ですか?』
縁下さんにくるりと後ろ髪を向けて見る。
縁「あ・・・うん、似合ってる、と思うよ・・・」
妙にたどたどしい返事に私は少し不安になり、そっと振り返ってみる。
『縁下さん?』
縁下さんは、なぜか顔を赤くして・・・横を向いてしまった。