第10章 冷たい雨
金網の扉をくぐるのに傘を閉じて、私はコートに入った。
カシャン、と鳴った扉の閉まる音は、すぐに、雨が地面を打つ音に消える。
コートの隅の方に、花宮はぼーっとつっ立っていた。
雨粒が花宮の肩や頭ではねているけど、花宮は気にしていない様子である。
彼に傘をさして、どうしたの? なんて冗談っぽく聞くつもりだった。
「はなみ……や……」
私の声に気づいた花宮は、こちらを振り返る。
途端に、言おうと考えていた言葉は全て吹き飛んだ。
「……どうしたの?」
世界の全てに絶望したかのように、花宮の瞳から光が消えている。
ゾッと背筋の凍るような目。
あまりの恐ろしさに、思わず足がすくむ。
それでも足を踏み出したのは、今度こそ後悔したくないと思ったから。
「花宮……?」
「……来るな!!」
突然の大声。
驚いて、持っていた傘の柄から手を滑らせた。
一度バウンドしてから、パサリと落ちる。
雨に打たれる花宮は、ぎゅっと口元を引き結んだ。
何かあったんだ、ってことはすぐに察した。
来るなと叫びながら、助けを求めるように花宮はこちらを見つめる。
「……っ、…………花宮」
一歩、一歩、花宮に近づくと、再び彼は叫び声を上げる。
「来るんじゃねーよ!」
眉を寄せ、目元を歪ませる。
その表情はとても苦しそうで、放っておけない。
花宮の顔に雨粒が当たって、頬を伝う。
まるで泣いているようにも見える、その顔に、手を伸ばせば届く距離。
そこまで近づくと、花宮はふいと顔を伏せた。