第10章 冷たい雨
沈黙が流れて、雨音だけが響いている。
私も花宮も、頭から足先までびしょ濡れになっていた。
花宮の長い襟足からしずくが流れて、鎖骨で止まる。
「お前の……」
花宮が小さく呟いた。
少しも聞き漏らすまいと私は耳を澄ませる。
「お前のマンションが建っているあの場所に、本当は、俺の通う高校があるはずだ、なんて……そんなことを言ったら、おまえは信じるか?」
「え?」
「…………だから、気がついたら、なくなってたんだよっ! 通ってた高校も、友達も、自分の家も……全部!! ……信じられるか?」
顔を上げた花宮は、いびつに笑った。
自分を嘲笑うように、口元を歪ませる。
見ていて心が痛くなる。
全部なくなっていた?
花宮の言うことがもし本当だとして、自分だったらどうするだろう。
何もかもがなくなって、どうすることもできなくて、行く宛だってなくて……想像して身震いした。
そうか、花宮は今、私しか頼る人がいないんだ。
「…………信じるよ」
花宮が目を見開く。
それこそ信じられない、とでも言いたげに。
「こんなありえない話、お前は信じるって言うのか?」
「……うん、花宮が嘘を言ってるようには見えない」
私が頷いて、そう言った直後のことだった。
花宮は口元に手を当てて、肩を震わせはじめる。
「……花宮?」
クツクツと笑い声が聞こえたかと思うと、花宮は顔を上げる。
笑ってる……?
そして、私のすぐ後ろにあったフェンスに派手な音を立てて手をついた。
花宮の端正な顔が鼻先まで近づいてくる。
「バァカ……全部嘘に決まってんだろ!!」