第37章 【我儘王子】×【真面目女執事】
それがまた変わったのは、いつだったか。
王子が16回目の誕生日を迎えた日、
両親お二人共、大事な用件があって一緒にお祝いが出来なかった。
前日に盛大なお祝いをしてもらっていた時にはあんなに嬉しそうで、
心配そうにする言葉にも全然平気だと答えていた王子が、その日は部屋で1人で泣いていた。
「…失礼します。…蒼依様、泣いて居られるのですか。」
廊下にまで聞こえてきたその泣き声を、私は放っておくことが出来なかった。
「雨衣…。」
驚いた顔をしてこっちを見る。
その頬には涙の跡。目にはまだ涙が溜まっていた。
「…なんで、来たの。」
「…―私は、貴方の執事ですから。」
「私にくらいは、ワガママ言ってもいいんですよ。」
「…え?」
「我慢していては、辛いですから。―なんて、ただの執事が何言ってんだって話ですけど。」
ちょっとだけ笑ってみせる。
するとその瞬間、王子の目に溜まっていた涙が、ぽろぽろと零れた。
「……っ、あんま、こっち見ないで…。」
ごしごしと目を擦って、隠す。
「どうしてですか?」
「もう16歳にもなるのに、寂しくて泣いてるなんて恥ずかしいだろ…っ、」
「王子が嫌と言うなら、私は見ませんよ。…でも、私にも寂しくて泣きたくなる事は有りますから。寂しくて泣いてる王子を恥ずかしいとは思いません。」
私がそう言うと、また驚いた顔をした。
でもその後、ふわりと少しだけ王子が笑った。
「…!」
それは、儚げな笑みだった
―そんな顔もするのか。と、今度は私の方が驚かされる。
「このまま、隣に居てよ。」
「はい。もちろんです。」
王子の最初のワガママは、小さなもので。でもどこか暖かいものだった。
「…このこと、誰にも言わないでよ…?」
「はい。秘密です。」
王子と居るうち、1つ分かったことがある。
王子は、ずっとずっと色々な事を我慢してきた。
今までもこうしてみんなの前では無理して笑っていたんだろう。