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Luce e Concerto di neve【復活】

第3章 Farfalla ammaliante


チリン、と出入口の扉に備え付けられた鈴の音が響く。静かに入れば嗅ぎなれた薬品の匂い。この薬局は隣の小さな小児科とくっ付いていて、入って左側の奥のソファには幾人かの母子が座っていた。薬局コーナーには主に老人が薬剤を見ている。



『こんにちわ』

「いらっしゃい。大丈夫だったかい?」

『何がですか?』

「ほら…多国籍の怖そうな連中が彷徨いてるだろう?」



どうやら胡蝶と呼ばれる医者を探してるらしいんだ。と続けられる。それは先程のパン屋さんでも聞いた。しかも数週間前からこの状態らしく、月一でしか街に降りてこないアタシは知らなかったよ。そして探してるのはもう明らかにアタシじゃないか。でも何でアタシが此処に居るってバレたんだろう?あの時の関係者は誰一人として生かしてないハズなのに。



「君も医者だから絡まれたりしてないかと心配してたんだ」

『ご心配どうも』

「そう言えば今日は白衣もジャケットも着てないんだね」

『ええ。汚してしまったので』



薬剤師と他愛のない世間話に馴染む。このまま息を潜めていれば、きっと居ないと判断して去ってくれるだろう。何せ誰もアタシの容姿も姿形も知らないんだし月一でしか街に現れないんだから見付かる事は無い。黙ってやり過ごせば大丈夫。



-チリン-



と出入口の鈴が鳴る。話していた初老の女性薬剤師が頬を染め目を見開いて口をポカンと空けて固まるので不思議に思って出入口を振り返る。



『………』



スラリと高い背。サラサラの綺麗な銀髪。目付きは鋭いけど眉目秀麗で整った顔。薬剤師が見蕩れる訳だ。その男性は薬品コーナーをぐるりと見渡した後、此方を見ると歩み寄ってくる。咄嗟にスペースを空けると軽く会釈をされて薬剤師に話し掛ける。



「鎮痛剤と軟膏をくれ」



間近で見ると本当に綺麗な男性(ひと)。でも即座に気付く。この方はこちら側の人間だと。





※※※





長い睫毛に縁取られた黒曜石の様な大きな瞳。小さな鼻。ぷっくりとした血色の良い唇。とてもこちら側の人間だとは思えないあどけなさを残した女。だがコイツは………間違いない。こちら側の人間だ。多分この女も俺が普通の人間では無い事に気付いてるだろう。



「鎮痛剤と軟膏………えっと用途は?」

「鎮痛剤は頭の悪い奴に効くやつ。軟膏は…切傷に効くやつ」

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