第2章 500年前の乱世と500年後の出会い
「信長様、歌恋をお連れしました。」
「入るが良い。」
威厳ある声が襖越しに聞こえてきた。
着物なんて何年ぶりに着たんだろう…。
祖父母の家にいた頃はお店の周年記念パーティや、大事な人と会うときなどことある事に着物は着ていた。
だから1人でも着られるように必然的になってしまい、女中さん達が驚いていた。
「失礼します。」
すっと襖があき、皆の視線が歌恋に注がれる。
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京都の祖父母の家にいた頃着物を着た時の姿勢や立ち居振る舞いなどは祖母から厳しく教わっていた。
5才頃の時の話。
祖母「いい?歌恋。」
「何?おばあ様。」
祖母「着物を着たら背筋を伸ばして、歩き方は音を立てないように細かくかつ優雅にススっと歩く。やや内股気味に、顎は出し過ぎず、目線はやや下向きに。」
「はい。おば様」
祖母「でも、下を向きすぎてもダメ。手は前で重ねて、少し斜めに身体を入れて。」
祖母が5才の歌恋に立ち居振る舞いを身体に染み込ませるようにしていく。
当時は着物なんて重たいし、締め付けるし、苦しいしで歩くのもやっとだった。
でもことある事に祖母は体に叩き込ませるようにして行った。
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(顎は引き気味に、目線はやや下向きに、下向きになり過ぎず、胸を張り過ぎない。)
まさか、幼いころから叩き込まれた事がこんなところで役立つなんて思いもしなかった。