第3章 落ちた劇場艇〜魔の森〜
「うわ〜、なにか来るよ!!」
テントも畳んで、旅支度をすっかり整えた私達。
さあ出発するぞ、とそれぞれが立ち上がった時。
森の方から何かが飛んできた。
「ちょっと待つクポ〜ッ! 20年魔の森に住んでるけど、脱出した人を見たのは初めてクポッ!」
モフモフと丸っこい身体は薄ピンク色で。
背中から生えた一対の羽をはためかせて飛んでいる。
人の赤ん坊ほどの大きさの生物は、頭に生やした赤いボンボンと一緒に身体を揺らした。
モンスター……ではないよね。
襲いかかってこないし、それに喋ってるし。
それになにより、かわいい!
『モーグリですよ。ほら、教えたじゃありませんか。彼らは精霊でモンスターのように襲ってくることはなく、とても友好的なのです』
ああ、これが!
確かにガーネットから習った記憶がある。
全国各地に生息していて、彼らは独自のネットワークを持っているとか。
そういえばアレクサンドリア城にもいたらしいけど、会ってなかったなあ。
どうやらこの子は、魔の森から脱出したジタン達に感心しているらしく、お近づきのしるしとやらを渡された。
「それはボクたちを呼べるありがた〜いたて笛クポ〜ッ! いってらっしゃいクポ〜」
モーグリは見送り人になってくれるみたいだ。
空中でクルリと大きく回ると、手を振って私達の旅立ちを促す。
「ありがとう」
「クッポッポ!」
ビビは少し名残りおしそうに、何度か振り返って
「バイバイ!」
と手を振っていた。
モーグリをチラチラと気にするビビはかわいい。
もしかしたら、あの子ともっと仲良くなりたかったのかも。
そんなことを思いながら。
霧の上へ抜けられるかもしれない洞窟を目指して、私達は白く霞んだ大地へと踏み出したのだった。