第8章 遭遇
一際派手なエンジン音が鳴ると、鉄馬車は停止した。
どうやら到着したらしい。
今日は一日中、鉄馬車に乗ってた気がするなぁ。
地面に降りても、まだ身体が車体の揺れる感覚を覚えている。
私達はしばらく歩いて、看板の前で立ち止まった。
「えっと……右がトレノ方面で、左がダリ方面だって」
左右に別れる道を見比べながら、ダガーは言う。
「ダリに泊まったのって、まだ数日前のことなのよね。なんだかずいぶん昔のことみたい」
「そうでありますな。ここ数日の慌ただしさは目を見張るものがありました」
私達がしみじみとしていれば、マーカスに「そんなことより早く行くっス」と急かされた。
「待って、もう少しでタイチが来ると思うから……あ……」
振り返ると、何かを抱えたお兄ちゃんがこちらに駆け寄ってきていた。
「悪い、待たせたな」
「それどうしたの?」
「なんかマリーちゃんが持っていけって、アイテム色々もらった」
たしかにお兄ちゃんの腕の中には、見覚えのある液体の入ったビンだとかが大量にある。
お兄ちゃんは苦笑する。
「俺じゃ持ちきれなくてさ、皆ももらってくれないか?」
「そういうことなら」
「かたじけない」
「これ、マーカスさんも」
「じゃあ遠慮なくもらうっス」
それから、お兄ちゃんは「あとさ……」と何か言いにくそうにもごもごとしていた。
「まだ何か?」
「あの、お二人に少し頼みが……」
そう言って、お兄ちゃんはスタイナーとマーカスを見る。
なんだろう。
二人も首を傾げている。
「俺に戦闘技術を教えてくれませんか? 身のこなし方とか、モンスターとの戦い方とか」
スタイナーはすぐに「自分はかまわないのであります」と頷いた。
次にマーカスを見れば、彼は渋顔をする。
「俺にそんな義理は……」
それからすぐ、膨らんだ自分の懐が視界に入ったのだろう。
マーカスはがしがしと自分の頭を掻いた。
「仕方ないっスね。そのかわり、トレノまでの間だけっスよ。そんな短い間にできることなんて限られてるっス」
「じゃあ決まりね、行きましょう。トレノはこっちよ」
ダガーは楽しそうに右方向を指差すと、足取り軽く歩きはじめた。