第6章 放たれた刺客〜カーゴシップ〜
「ビビ殿も妙なことを言われますな。何を気にされているのか、自分にはわからないのですが……」
あっけらかんと沈黙を破ったのはスタイナーだ。
「……わからない」
ビビは口の中で、スタイナーの言葉を含むように返した。
「ビビ殿はビビ殿であって、彼らは彼ら、ではありませんか? いったい、なんのことを……」
スタイナーは、本気で首をかしげていた。
すごい……。
私は素直にそう思った。
スタイナーはまっすぐだ。
まっすぐで頑固で、自分の正義を持っている。
それゆえに周りと衝突することもあるけれど、まっすぐだからこそ、その言葉に嘘はない。
「おっさん、いいこと言うな! 何があろうとビビはビビってことさ! な?」
便乗するように、ジタンがビビを励ます。
ビビはしょげさせていた背中を伸ばすと、うなずいた。
「よ〜し、ビビ。甲板に出よう!! リンドブルムの城下町は飛空艇から見ると気持ちいいんだぜ!」
ジタンが甲板に出て、手招きする。
「ほら早く! 正面玄関の天竜の門がすぐそこだ!!」
少し戸惑いつつも、ビビの顔にはすでに好奇心が映し出されていた。
操縦室から元気よく駆けていく。
よかった……ビビ、元気になったみたい。
私はほっと息をはく。
それでも、根本的な問題が解決したわけじゃない。
人形……作り物……無機質な心……黒魔道士兵……アレクサンドリア……。
ビビの抱えるものはあまりにも大きく、その小さな身体で背負うには重たすぎる。
3号との戦いでは、その片鱗を垣間見た気がする。
船縁から、ジタンが身を乗り出した。
彼の指差す先で、赤い鳥の描かれた巨大な門が、厳かに開きはじめた。
ビビが瞳を輝かせる。
その姿を見て、私は胸がぎゅっとなった。
この先、ビビにどんな悲惨な事実が突きつけられるのだろう。
それは、ひどく残酷なものなのかもしれない。
私はただ、ビビの悲しまない未来を願わずにはいられなかった。
『…………』