【うたの☆プリンスさまっ♪】あなたの全てが好きだから
第1章 輝いている彼
「いよいよだね」
「そうだね」
美雪は緊張した面持ちで、ラベンダー色に変えたペンライトを握り締めている。
私も緑色にしたペンライトを膝の上に置いて、その時を待っている。
ーー時刻は17時少し前。もうすぐライブが始まる。
「キャー!」
ステージがいきなり暗転して、モニターに映像が映し出される。女の子たちの悲鳴とも歓声ともとれる声が会場中に響き渡る。
(嶺二……)
画面には恐らく、嶺二だと思われる後ろ姿が映った。それと同時に、女の子たちの黄色い悲鳴が湧き上がる。
(……やっぱり、すごい人気だな……)
何度もライブに足を運んでこの歓声を聞くたびに、あなたは本当にすごいんだなと思い知らされる。ーーもう、私よりも遥か遠くへ行ってしまったような……寂しい感覚に囚われる。
映像の中の嶺二は車のキーを指でクルクル回しながら、どこかに向かってゆったりと歩いている。そして、ガレージに着くと、シャッターを勢いよく開けた。
「……ビートル……」
会場の歓声にかき消されてしまう程の小さい声で呟いた。
(まだ乗ってたんだ……)
ーー嶺二が昔から乗っていた愛車。小さくて可愛いフォルムが特徴で、大人ぶっている嶺二には少し似合わないと思った覚えがある。
画面上の嶺二はそのまま車に乗り込み、車のバックミラーをいじる。彼の顔がバックミラーに映し出されると、さらに大きな歓声が上がった。