第2章 静かの海で
その冷たい感触に顔を上げ、何事かととわへ視線を遣れば。
彼女は静かに微笑みながらはらはらと温かな涙を零し、それが俺のシャツを濡らしていた。
瞬間、心がかっと熱くなる。
呆れられた訳ではなかったのだと、落胆させてしまった訳ではなかったのだと。
とわのその微笑みが、その優しく温かな涙が。
それを伝えてくれていた。
そしてとわは静かな笑みのまま、頬を伝う涙を拭いもせず。
にこりともう一度微笑み、優しげな視線だけで俺に続きを促した。
俺はその涙を躊躇いがちに、壊れ物に触れるようにそっと拭い。
とわの笑みと涙に誠実に応えるべく、丁寧に、真摯に言葉を紡ぐ。
「俺は、本当に…。僅かな事しか…、些細な事しか、してやれないんだ……」
*****
ボクがキミに出来る事。
しとしとと伝い落ちるその涙を拭う事。
キミの涙はとても綺麗だけど、その姿はボクの胸を締め付けるから。
すべすべと白い滑らかなその額に口づける事。
キミが今まで負った心の傷全てを、癒してあげたいから。
さらさらと揺蕩うその髪を撫でる事。
春宵を纏うその糸が、キミとボクを繋ぐ優しい鎖だから。
くすくすと零れるキミの笑い声を唇で閉じてしまう事。
笑ったりしないで、キミに焦がれるボクの言葉を聞いて欲しいから。
からからに声が枯れるまでキミを祈り歌う事。
いつまでもキミが倖せでありますように、それがボクの願いだから。
ひらひらと天上に誘われるキミの小さな体を抱きしめる事。
神様にどこまでも愛されているキミを抱きしめていなければ、キミは天へと還ってしまいそうだから。
きらきらと瞬くその瞳をそっと塞ぐ事。
醜い現実も残酷な真実も、キミの輝く薔薇色の瞳には映して欲しくないから。
それくらいしか、ないんだ。