第2章 静かの海で
あまりにも脈絡のない話の始め方だった。
あまりにも唐突で突飛な話の内容だった。
けれどとわはただ黙って、優しい沈黙で俺を包んで。
俺の話に耳を傾けていた。
そして俺の声が闇に吸い込まれるのを待って、顔を伏せ様々な情けなさに今にも泣きそうになっている俺に、そっと言葉を差し出した。
「そんなにたくさんあるの?…ありがとう。
すごく…、すごく嬉しい」
闇夜の空気を微かにその甘やかな声で震わせて。
優しく、優しく。
また薄く瞳に涙を溜めながら。
本当に本当に。
ただただ嬉しそうに微笑んで。
ちっともたくさんなんかじゃない。
ありがとうなんて言われるような事でもない。
俺がとわにしてあげられるのは、本当にちっぽけな事しかないんだ。
こんなんじゃとわを倖せにする事なんて出来ないんだ。
それなのに、何でとわはそんなに優しいんだ…?
それなのに、何でそんな愛しそうな笑顔をこんな俺に向けてくれるんだ…?
彼女の言葉と微笑みがまるで慈悲深い聖母のように穏やかで。
彼女のその笑みと言葉が嬉しくてしょうがなくて。
俺は堪えきれず、本当にみっともなく。
とわの涙につられるように、堪らず泣き出してしまった。
「泣かないで、薬研?
ねえ、何で泣くの…?
薬研は莫迦だなあ…」
そう小さく笑みを含んだ声で言いながらとわは、これ以上ないくらい優しい手つきで俺の頬を両手で包み込み。
もう体裁も何もなく泣きじゃくる俺の唇に、一つ小さな口づけをくれた。
そうして優しく触れてくる彼女の瞳こそ。
あとからあとから溢れ出る、月夜の光を宿した雫で濡れているのに。