第2章 静かの海で
「俺は…。何もしてねえよ……」
そう、俺はとわに何もしてない。
何もしてやれてなんかない。
「ううん、そんな事ない。こうして抱きしめてくれてる」
「これくらいで…わざわざ礼なんて言うな…」
俺はただ、彼女の求めに従っただけだ。
自分がそうしたいから、とわを抱きしめてるだけ。
「だって嬉しいんだもの」
「俺には…。これくらいしか出来ないからな…」
もう一度、先ほどより少し強くとわの体を抱きしめる。
けれど俺の胸に巣食った焦燥感は消えない。
「薬研、あったかくて安心する」
「だから…!俺は…何もっ…!!」
急に声を荒げた俺に、とわは不思議そうに瞳を瞬かせる。
「…薬研?」
「ごめん…。ごめんな、とわ…」
自分の無力さに、とうとう本音が零れる。
「何を謝るの、薬研?」
「俺は…とわに…。こんな…僅かな事しかしてやれないんだ…」
腕の中の彼女はそんな俺の台詞に、ただ黙って小さな手のひらを背中に回し。
胸に頬を優しく添わせて、そっと静かに言葉の続きを待ってくれた。
その彼女の優しさが、俺の中の弱さを露呈させる。
まっすぐにとわと向き合えなくて、俺は彼女の白く華奢な肩に顔を埋め。
ぽつりぽつりとそのどうしようもない弱さを吐露し始めた。
「俺はとわに…。永劫に続く俺ととわの未来を約束する事も出来ない……。
ありふれた、戦いのない、穏やかな暮らしを送る事も…。
手を取り合い、一緒に時を重ねていく事も…。
人が"倖せ"と呼ぶものを…。
何一つ……、とわに、あげられない……」
堰を切ったように溢れ出した無力な俺の、やはり無力な言葉たち。
沈黙を守る彼女に、それ以上何も言葉が出ない俺。
不安が波のように押し寄せてくる。
呆れられただろうか…。落胆させてしまっただろうか…。
そう思い始めた俺の、シャツの胸が濡れていると感じたのは、しばらくしてからだった。