第2章 静かの海で
「どうした、とわ?」
彼女のがらりと変わったその雰囲気に、何か良くないものを感じて問いかけながら。
腕の中に居るとわを、今しがたの彼女の願い通り強く抱きしめる。
すると僅かに震えていたとわの体から少しずつ力が抜け、彼女の額がぐりぐりと俺の胸に押し当てられた。
「ん…、ちょっとさっきの怖い夢思い出しちゃっただけ」
「どんな夢だったのか聞いてもいいか…?」
遠慮がちに彼女にそう問えば。
俺の胸に額を押し付けたまま、とわはバツが悪そうに苦笑を零しながら話し始めた。
「うんとね、この本丸が時間遡行軍の襲撃に合うの…」
「ほう。それで?」
「皆、私だけは守ろうと戦ってくれるんだけど、どんどん、どんどん…。五虎ちゃんとか加州とか蛍丸とか一期とか…三日月も…」
「うん、で?」
「皆、皆…。死んじゃうの…。最後に薬研も私を庇って倒れた…。でも私には何も出来なくて…。ただ倒れていく皆を見ている事しか出来なくて…。私、何も出来なかった…。皆に守られてばっかりで、皆の為に何一つ出来なかった…!」
悪夢の内容をとわは震える声で全部吐き出すと、俺の存在を確かめるようにシャツをギュッと握った。
生来、優しい彼女には審神者の仕事は向いていないのだろう。
戦なんかとは無縁な、何処か平和な場所でその美しい生を華咲かせる事こそ似合っている。
それなのにとわは審神者としての適正を政府に見出され、こうして日々戦に出陣する俺達の安否を心から心配している。
「だから部屋を離れてあんな所に居たのか」
「うん、皆の傍に居たくて…。ただの夢だったんだって確かめたくて…」
悪夢の恐ろしさを思い出させてしまったのか。
彼女はまた微かに肩を震わせた。
「大丈夫だ、とわ。そんなのあり得ない夢だ…」
そう言って彼女を安心させるように、もう一度とわの体を強く抱きしめれば。
「うん、うん…。ありがとう、薬研」
ほんの少し涙混じりの声で応えるとわ。
けれど俺は彼女の"ありがとう"に胸がつかえた。