第2章 静かの海で
「いらっしゃーい」
すぱーんと襖を両手で左右に開き、とわが俺を部屋へ入るように促す。
とわの部屋は彼女が西洋式を好む為、年代物の落ち着いた西洋式の家具で揃えられている。
寝所も布団ではなく、俺達にはあまり馴染みのない西洋式のベッドだ。
でも部屋自体の作りは和室なので、和洋折衷の雰囲気が漂っている。
「じゃあ、邪魔するぜ」
言いながら襖をきちんと閉め、部屋に入るものの。
何というか身の置き場がない。
それはこの部屋の雰囲気が居心地悪い訳ではなく、むしろ居心地は良い。
それでもこうして所在無さを感じるのは恐らくはこの状況。
先ほど廊下で彼女の耳に口づけなんか出来た余裕が嘘のようだ。
けれどとわはそんな俺の心中など、やはり当たり前のようににお構い無しに。(元から彼女に気遣いなど期待していないが)
ベッドへとまっすぐ進み、ぽすんと枕へ頭を沈める。
「薬研ー?そんな所に突っ立ってないで早くこっちに来て?」
そう無邪気に微笑み、俺を手招きする。
「ああ、今行く」
手に余る緊張と、それとは裏腹に何か邪まな期待を胸にベッドへと近づき。
横になってにこにこと微笑んでいるとわの隣にそっと体を滑り込ませた。
「俺、何だか緊張とか柄にもなくしてるんだが…」
今の正直な気持ちを言葉に乗せる。
するととわは少し照れくさそうに笑みを浮かべると。
「私もちょっと緊張してる…。でも緊張より薬研が此処に居てくれる嬉しさの方が大きいよ?薬研は?一緒に居るの嬉しくない…?」
「ああ、そうだな…。緊張もするがとわがこうやって隣に居る事が嬉しい」
そう言って笑みを向ければ。
とわは心から、本当に嬉しそうに微笑んで。
その小さな体をすり寄せ、俺の腕の中に自分の体をすっぽりと収め。
また少し照れくさそうに笑みを浮かべ、俺にちゅっと音を立てて口づけた。
「これ、さっきのお返し。だからそのまたお返しに私の事ギュッて抱きしめて… ?」
そう言いながら俺をまっすぐに見つめるとわには。
つい今まで見せていた照れくさそうな笑みはなく。
其処には、見えない恐怖から逃れようとするかのように。
俺にひしと縋る彼女が居た。