第1章 冬
「俺、ずーっと香苗さんに言いたかった事があったんです。」
その言葉で香苗の胸が跳ねた。
啓太の顔が少し寂しさを帯びる。
「あの日の事、ごめんなさい。」
予想外の謝罪。
どこかで願っていた謝罪。
なのに香苗は胃から湧き上がるような、ざわざわとしたうごめく感情を止められなかった。
謝罪?なぜ?
あんたはあの日の事を忘れたくて仕方なかったんでしょう?
あんな事するんじゃなかったって後悔してるんでしょう?
お互いそこに触れる事無く、以前と変わらない関係でいる事が暗黙の了解だったんでしょう?
原田は失恋で傷心していて、あたしが慰める、そういう流れだったんじゃないの?