rain of fondness【黒バス/ナッシュ】
第31章 rain of fondnessⅪ
堪える涙は未だ流さない。
零れ落ちることもなかった。
心の中で、そして過去にも、名無しはもう十分泣いていたのだから。
「名無し・・――」
まわされる腕がとてもあたたかい。
名無しはその夜、あのとき一瞬でも眠りから覚めていたということを自ら口にすることはなかった。
無論、そこでナッシュが何を言葉にしたか、知っていたということも。
自分だけが知っていればいい特別なこと・・・そう思っておけば、いつか知られることになっても、きっと今のナッシュなら呆れて笑ってくれるだろう。
そう信じたいし、信じられると思えた。
大好きなその腕に抱かれ、眠るため、静かにまぶたを閉じる。
彼女の目に最後に映っていたのは、小さく微笑みながら自分を見つめるあたたかな表情。
その鋭い瞳の中に確かに覗くのは、名無しに再び向けられていた、ナッシュの穏和な眼差しだった。
rain of fondnessXI
20171111UP.