第9章 桜の樹の下で 加州清光②※R18
加州が眠ると、ひゅうがは身体を起こして彼の寝顔を見つめた。
目を閉じ、静かに寝息を立てる加州の顔は人形のように美しい。
「…………清光」
ひゅうがは加州の頬を撫でると、愛おしげに口付けた。
「私も清光に、今もこれからも全てあげたい。けど……」
ひゅうがは、彼にすべてを捧げられない。
いつか来る、やるべきことの為にひゅうがは立ち止まれない。
それに、ひゅうがはいつまで彼らと共に過ごせるかすらわからない。
怪我はたちまち治り、老いることのない、ひゅうがの不変の身体。
だが、不老不死なのかはわからない。
私はいつまで、ここに在るのだろう。
その疑問が頭をよぎる。
いつかは時間遡行軍との戦いが終わり、審神者ではなくなる時が来るだろう。
そうなった時、加州や刀剣男士達と別れなくてはならないのだろうか。
もし別れてしまったら、時間が両親の記憶を奪ってしまったように、時が経てば加州とのことも忘れてしまうのだろうか。
「大切なものが出来れば出来るほど、失うのが怖い」
ひゅうがは不安を振り払うように首を横に振ると、加州の手を握る。
「だから私は、すべてをあげられない」
それでも、今夜だけは。
加州一振だけを選び、女としての幸せを選ぶ。
そんな夢を、今夜一晩だけは見たい。
ひゅうがは加州の傍に寄り添うと、加州の温もりを感じながらゆっくりと眠りにおちていった。
第十章に続く