第9章 桜の樹の下で 加州清光②※R18
「主……ここでなにやってるの?」
ひゅうがの背後から、聞き慣れた声がする。
ひゅうがは嬉しさに胸が熱くなるのを感じながら、ゆっくりと振り返った。
「加州……」
きっと来てくれる。
そうひゅうがは信じてはいたが、不安もあった。
ひゅうがは言葉に詰まり、加州の顔を見ながら茫然と立ち尽くしていた。
お互いが黙ったまま、二人の間に沈黙が訪れるが、しばらくすると加州が口を開いた。
「……ここ、前にも来たよね。その時も、主と俺の二人だけだった」
加州が懐かしむような顔をしながら、木の幹に手をつく。
「俺が倒れちゃってさ、あの時はもうダメかなって思ったけど………。俺は、消えなかった。それって主が言ってた、主の力と関係あるの?」
こんのすけが何か話したのだろうか。
加州があの日、手入れ部屋に行っていないことは、ひゅうがとこんのすけしか知らないことだ。
もしくは、ひゅうがの側に一番近くにいたのは加州だ。
彼ならば、何かしら気付いていてもおかしくない。
「えっと……」
ひゅうがは、自分から力について切り出すつもりでいたのだが、思いがけない加州の問いに、頭が真っ白になる。
加州を待つ間、どのように話すか頭の中で何度も考えたというのに。
「関係ある……よ。だって私が怪我を治した……んだから」
ひゅうがは唇を噛み締めた後、彼女は声を震わせながら話し始めた。
「……か、加州っ!ううん……清光聞いて。貴方に話したいことがあるの」
全てを話すのは怖い。拒絶されたくないから。
加州なら受け入れてくれると思ってはいても、不安がよぎってしまう。
ひゅうがは思わず加州から目を逸らしてしまい、俯きながら話し始めた。
「……私は、相手に命を与えることが出来る。清光や他のみんなにしたみたいに、ヒトの身を与えることや傷を治したり。草花を成長させたり……。例えば、植えた種をすぐに成長させたりとか……」
そういえば、加州と畑を耕した時にこっそり力使ったっけ。
畑に種を植えた翌日に実がなり、驚く加州に肥料が良いからと適当に誤魔化したことを思い出し、ひゅうがはふと思い出し笑いをした。